1950年代を髣髴とさせる、のどかな田舎町に潜む、欲望と暴力が渦巻く暗部を、伝統的なミステリーの手法に則って、暴き出しつつ、美しい芝生と、その下で蠢く昆虫、という導入部に象徴される、善と悪の葛藤が描かれる。不法侵入や覗き見、性的虐待といった倒錯的行為が、物語の重要な役割を果たしており、特に、性的虐待の描写については、公開と同時に、論争を巻き起こしたが、結果的には、興行的成功を収めることとなった。
大幅な予算の削減と引き替えに、ファイナル・カットの権利を得て、その才能を存分に発揮した本作が、成功を収めたことによって、デイヴィッド・リンチは、ジャンルを問わず、複数の題材を世界的な成功を収めた次作『ツイン・ピークス』に引き続き多く盛り込むという、リンチにとっては本作が新たな転換点となり以後のリンチの作風を確立させることとなる。
ストーリー
父親の入院を期に、ジェフリー・ボーモントは、大学を休学して、生まれ故郷である田舎町、ランバートンに帰郷した。そんなある日、父親を見舞った帰りに、野原を通りかかったジェフリーは、そこで、切断された人間の片耳を発見する。問題の片耳を、父親の友人である、ジョン・ウィリアムズ刑事の元に届けたジェフリーは、それが縁で、ウィリアムズ刑事の娘、サンディと知り合う。ウィリアムズ刑事の話を盗み聞きしたサンディによると、今回の事件には、ドロシー・ヴァレンズなるクラブ歌手が、関係しているらしい。
好奇心を覚えたジェフリーは、事件解決の手がかりを得るため、サンディの協力で、ドロシーが暮らす、ディープ・リヴァー・アパートの710号室に、無断で侵入する。クローゼットに身を潜めたジェフリーが、そこで垣間見たのは、ドロシーが、謎の人物、フランク・ブースと共に繰り広げる、倒錯的な性行為の一部始終であった。
この事をきっかけに、ジェフリーは徐々に、隠されていた世界へと、引きずり込まれていく。
- 全米映画批評家協会賞 - 作品賞、監督賞、助演男優賞(デニス・ホッパー)、撮影賞を受賞。
- ロサンゼルス映画批評家協会賞 - 最優秀監督賞、最優秀助演男優賞(デニス・ホッパー)を受賞。
- シッチェス・カタロニア国際映画祭 - 作品賞、撮影賞を受賞。
- モントリオール世界映画祭 - 男優賞(デニス・ホッパー)を受賞。
- ボストン映画批評家協会賞 - 作品賞、監督賞、助演男優賞(デニス・ホッパー)、撮影賞を受賞。
- インディペンデント・スピリット賞 - 主演女優賞(イザベラ・ロッセリーニ)を受賞。
Roy Orbison 『In Dreams』