トラフィック Traffic




2000年のアメリカ映画。監督は、『オーシャンズ』シリーズのスティーブン・ソダーバーグ。アカデミー賞では監督、脚色、助演男優(ベネチオ・デル・トロ)、編集の4部門を制覇。

あらすじ
アメリカを揺るがし続けて久しい麻薬犯罪コネクション。そのルートのもとであるメキシコで、組織に翻弄(ほんろう)されながら職務をまっとうしようとする捜査官(ベネチオ・デル・トロ)、アメリカで麻薬ぼく滅に乗り出す国家の責任者(マイケル・ダグラス)と麻薬におぼれるその娘、また夫を救うために麻薬ルートに手を染めざるをえなくなっていく妊娠中の専業主婦(キャサリン=ゼタ・ジョーンズ)などなど、多彩なドラマを同時並行させながら、麻薬戦争の全貌を追うスティーブン・ソダーバーグ監督の問題作。

作品解説
本作は、麻薬ビジネスの需要と供給、そして規制する側の視点、それぞれのドラマで映像の色味をブルー、グリーン、黄土色と分けることによって、登場人物の多いストーリー展開をわかりやすく描かれているのも特色のひとつ。
ラストシーンに野球場で試合をしている少年たちを見つめる視線には、終わり無き麻薬戦争との戦いに身を投じた警官(デル・トロ)が、少年たちの未来にひとすじの希望を見出しているようで心を打たれる。
また、妊娠中の専業主婦を演じるキャサリン=ゼタ・ジョーンズは、撮影当時、本当に私生活での夫マイケル・ダグラスとの間の子どもを妊娠中だった。

どちらかといえば、インディーズ系の芸術作品を主に製作していたソダーバーグが、娯楽性を上手くブレンドすることで、ソダーバーグ作品の中で最もバランスの取れた傑作と言える。ジャンプカットや手持ちカメラの多用は、ヨーロッパ映画の抽象的なビジュアルの踏襲であり、3つの平行するストーリーを映像の色分けで分かりやすく表現は、サービス精神旺盛なハリウッド映画そのものだ。

ラストシーンで流れるブライアン・イーノの『An Ending』が秀逸。


エンドロール『An Ending』Brian Eno

バス男 ナポレオンダイナマイト Napoleon Dynamite

バス男
2004年のアメリカ映画。日本では劇場未公開であり、アメリカでの公開終了後にビデオ映画として発表された。2004年にアメリカのミニシアターで小規模公開されていたが、口コミで話題になり全米公開のヒット作となった。
田舎のダサくて冴えない高校生たち三人の友情物語。オフビートかつコメディタッチで、あえてうまく肯定的に描き出したことで、かえって多くの人々の郷愁と共感を呼んだ。

あらすじ
毎日バスに乗ってハイスクールに通うナポレオンは、ルックスもライフスタイルも、そして家族構成までも超がつくほどのオタク・ワールドの住人。30を過ぎて無職&チャット恋愛中毒の兄と、かつての栄光の日々を振り返ってばかりの叔父さんは怪し気なビジネスを行っている。学校でいじめられてばかりの彼は、メキシコ人の転校生ペドロと友達に。やがてペドロは女のコにモテたいという理由から勝算ゼロなのに生徒会長に立候補。ナポレオンも懸命に彼の応援をし始めるのだが…。


解説
この作品とにかく面白い。必ず笑えることを間違いなし。ラストのダンスシーンに感動を覚えない人はまずいないと思う。オフビートで倦怠感あふれる妙なテンポは、筆舌に尽くし面白さ。コメディ好きには是非一度観てもらいたい。

邦題の『バス男』は、当時日本でヒットしていた『電車男』にあやかった物だが、主人公がバス通学しているだけで、『電車男』のストーリーに似ている要素はまったくない。促販目的でつけられたこの邦題は酷評されることが多い。




テーマ曲『Bus RiderJohn Swihart

グッバイ・レーニン! Good Bye Lenin!

2003年に公開されたドイツ映画。監督はヴォルフガング・ベッカー、音楽はアメリのヤン・ティルセン。

あらすじ
アレックスの母、クリスティアーネは、夫が西側へ亡命して以来、祖国・東ドイツに忠誠心を抱いている。
建国40周年を祝う夜、クリスティアーネは、アレックスがデモに参加している姿を見て心臓発作を起こし、昏睡に陥ってしまう。
意識が戻らないまま、ベルリンの壁は崩壊、東西ドイツは統一される。
8ヵ月後、奇跡的に目を覚ました母に再びショックを与えないため、アレックスはクリスティアーネの周囲を統一前の状態に戻し、世の中が何も変わらないふりをしようとするが…。

作品解説
東ドイツの社会主義体制が何一つ変わっていないかのように必死の細工と演技を続けるアレックスと、周囲の人々の姿が滑稽だが、泣かせる。
例えば、アレックスは映画マニアの友人デニスの協力を得て、コカ・コーラが東ドイツの国営企業と提携をしたという内容や、西ドイツの経済が悪化したことで自家用車で亡命する西ドイツ人が急増したといった内容の偽のニュースを製作して母に見せることで変化を納得させるといった点だ。
特に西側のピクルスが食べたいという母の要望を聞き、ゴミ捨て場でピクルスの瓶を探す場面は必見の名場面である。
音楽はヤン・ティルセンで『アメリ』に負けずとも劣らない仕上がりになっており、必聴のサントラだ。



テーマ曲『Summer 78 by Yann Tiersen

アメリ Amelie

『デリカテッセン』『エイリアン4』のジャン・ピエール・ジュネ監督作品。フランス映画。ミニシアター系作品としては、異例の興行収入16億円のヒット作となった。

あらすじ
両親との接点が少ないアメリは、孤独の中で想像力の豊かな、しかし周囲と満足なコミュニケーションが取れない不器用な女性。ささやかな一人遊びや空想にふける毎日を送っていたが、ある日、他人を幸福にするために密かな悪戯を始めるようになる。
そんな彼女は、ポルノショップ店員で、スピード写真のボックス下に捨てられた他人の証明写真を収集する趣味を持つニノに恋をする。だが、気持ちをどう切り出して良いのか分からず、他人を幸せにしてきた彼女も自分が幸せになる方法が分からない。
気になる男性の前にどうしても出ることができないアメリが、宝探しじみた謎のメッセージを送る。ニノはメッセージを頼りにアメリを探し回るのだった。

作品解説
悪戯一つ一つが、ユーモラスかつ、アメリの妄想やメルヘンなイマジネーションがポップで色彩豊かな映像で彩られ、非凡なセンスを感じられる作品。コミュニケーション不全や身体障害に対する温かい視線や、皮肉やユーモアに満ちた人間描写に知的な感覚を刺激されること間違いなし。

本作はB級エログロ映画を中心に配給するアルバトロスが、シナリオ段階で判断し、恐怖映画と勘違いして購入したという逸話がある。

音楽は、フランスの作曲家ヤン・ティルセン。本作の楽曲を提供したことで国際的に認知されることとなった。

・2001年アカデミー賞 外国語映画賞、美術賞、撮影賞、音響賞、脚本賞ノミネート

テーマ曲『La Valse D'AmélieYann Teiersen

リトルダンサー Billy Elliot

2000年に劇場公開されたイギリス映画。監督は本作が長編デビューのスティーブン・ダルドリー。1984年のイギリス北部の炭鉱町を舞台に一人の少年が、当時女性のためのものとされていたバレエに夢中になり性差を超えてプロのバレエ・ダンサーを目指す過程を描いた作品。

あらすじ
イギリス北部の炭鉱町エヴァリントンに住むビリー・エリオットは炭鉱夫である父と兄のトニー、そして軽度の認知症を患う祖母と一緒に暮らしている。母はビリーが幼いころに亡くなっており、父は近所のボクシングジムにビリーを通わせている。しかしビリーはボクシングを始めた当初から、殴り合うというボクシングの特性に馴染めず試合には負けてばかりであった。そんなある日、ストの影響でボクシングジムの隅でバレエ教室が開かれることになった。もともと音楽が好きであったビリーは音楽に合わせて優雅に踊るバレエに魅せられ、密かに教室に参加するのだった。



当時のイギリスは炭鉱不況の真っ只中で、ビリーの家庭は、父親と兄が炭鉱夫であるという、典型的なブルーカラー階級である。当然、父と兄はバレエは女のやるものだと、これっぽっちも理解を示そうとしないが、やがて父はビリーの才能を認めるようになる。
ビリーの学費を稼ぐために、ストライキを諦めて炭鉱に向かう父の姿は感動的。
少年が女子に混じりプロを目指すストーリーとコメディの様相を見せながらも親子愛を中心とした温かみのある人間ドラマは全世界で高く評価された。

Tレックスやクラッシュといったイギリス出身のアーティストによる楽曲が多数使用されており、サントラもオススメ。


オープニング『ride a white swan"  T. rex

リトル・ミス・サンシャイン Little Miss Sunshine


2006年のアメリカ映画。アカデミー賞で、脚本賞と、助演男優賞(アラン・アーキン)を受賞。

あらすじ
美少女コンテスト「リトル・ミス・サンシャイン」の最終審査に通過したぽっちゃり気味の少女・オリーヴのために、あらゆる問題を抱えたその家族が黄色のVWバスに乗って会場まで連れて行くその道中を描いたコメディ映画

パイロットを断念しなければならない兄や、祖父の死という障害を乗り越えながらも娘をミスコンに出場させるために家族が一丸となって奔走する姿は、可笑しくも感動的。肝心のミスコンはまるで別世界の人種たちの集まりであり、居心地の悪さを感じる父の姿には抱腹絶倒必至。そして、懸命に自分たちの存在を証明するがごとく、ミスコンをぶち壊すクライマックスには笑いも頂点を迎える。ラストは世の中はくだらない競い合いの連続であり、勝つことだけにこだわる父が、考えを改める旅であったことを想像させれる。

サントラはかわいらしいポップでノリの良い曲が多く、特にデヴォーチカが歌うテーマ曲にはほんの少し物悲しさも感じられグッド。


テーマ曲『The winner is』Devotchka

ザ・ロイヤルテネンバウムズ The Royal Tenenbaums



ウェス・アンダーソンの名を一躍有名にした本作は、カラフルな色彩にセンスの良い家具、小気味の良い台詞、円熟した演技、類稀な選曲、どこをとっても完璧なコメディドラマ。

あらすじ
テネンバウム家の3人の子供は、長男ビジネスマン、長女は作家、次男はテニスプレーヤーとして10代で頂点を極めたという天才一家。父親はいつまでも平和な暮らしを望むも妻との別居を境に家を追い出されてしまう。20年後に様々な問題を抱え成長した子供たちの前に、余命6週間で死ぬため最後くらい家族と暮らしたいと父親が現れる。かくして、22年ぶりに一つ屋根の下に暮らすことになったテネンバウム家に修復は訪れるのか?

バラバラだった個性豊かな面々が、父親の出現により、一つにまとまっていく過程をドタバタを交えつつ描いた点が可笑しい。現実的にはシリアスな問題に対しても決して暗くならず、さわやかに描かれていることが感動を呼ぶ、笑って泣けるコメディの傑作。

オープニング『op.26 Sonata For Cello & Piano In F Minor

戦場でワルツを Waltz with Bashir



2008年にアリ・フォルマン監督・脚本により製作された、イスラエル映画。


あらすじ
1982年、イスラエル国防軍の歩兵であったアリ・フォルマンが、24年後に兵役時代の友人と再会する。
友人がレバノン内戦での経験による悪夢に、今でも苦しめられている話を聞いたフォルマンは、自身が当時の記憶を失っていることに気付く。
フォルマンは、かつての記憶を取り戻すために、かつての旧友たちのもとを訪れ、対話を重ねることで、自分が実際に何をしていたのか、自分の記憶に迫っていく。
やがて、フォルマンはサブラ・シャティーラの虐殺の夜の記憶を取り戻すが、真実を知ったフォルマンは自身の行為に衝撃を受ける。



アニメーションを用いていることで、通常のドキュメンタリーでは描けない過去を再現すると同時に、フォルマン自身の記憶とともに描かれるイマジネーションが非常に幻想的な映像となっている。
また、本作で音楽を担当した、マックスリヒターはドイツの作曲家で、本作でニューヨークの国際映画音楽批評家協会賞で作曲賞と楽曲賞にノミネートされた。神秘的な映像
と完璧にマッチした、静寂さと重厚さを持ち合わせた楽曲となっており、オススメのサントラ。

テーマ曲『Haunted Ocean』Max richter