ウインド・リバー Wind River



作品について
アメリカには、インディアン保留地といい、公的に指定された先住民族の居留地がある。保留地は、農業や産業のない僻地が多く、居住施設や衛生状態も貧弱である。
舞台は、厳寒の大自然に囲まれたワイオミング州ウインド・リバー保留地。人間が歩いてたどり着くことが不可能な広野のど真ん中で、先住民族少女の遺体が発見される。FBIは、新米女性捜査官のジェーンを派遣するが、過酷な自然の中での捜査に難渋し、第一発見者であるコリーに捜査協力を依頼する。
全編に渡って描かれる雪景色、息をするだけで肺が凍ってしまうような過酷な環境は、美しくもあり残酷さもある。先住民族に対する政府の対応や、根強く残る差別、多くの事件は未解決のまま。
主人公のコリーは先住民族の妻を持ち、娘をウインドリバーで殺害されている。そのため、被害者である先住民の家族とはわかりあうことができるが、FBIのジェーンは相手にされない。しかし、ジェーンの捜査に対する態度が次第に理解され、コリーと友情を深めていく様子が良い。
最大の謎である、なぜ歩くことが不可能な広野のど真ん中に裸足で到達できたのか?その真相が明らかになるクライマックスは、ショッキングであるが、心を揺さぶられる。

作品情報
製作年:2017年
監督:テイラー・シェリダン
キャスト:ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン

ボヘミアン・ラプソディ Bohemian Rhapsody



作品について
クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの半生を描いた伝記映画。クイーンへの加入から、数々の名曲の誕生秘話が描かれる。フレディ自身の、出自や家庭環境、そしてバイセクシャルであることの苦しみなども描かれるが、何と言っても泣けるのが妻のメアリーですよ!メアリーの健気さに!
フレディが、クイーンを脱退しソロ活動を始めたあと、連日パーティーやドラッグ中毒で廃人のようになってしまい、もはやどん底状態になってしまう。しかしそこへ、離婚した元妻のメアリーが自宅へ訪ねてきて、あなたには帰るべき家があるでしょという、言葉をかけにくるシーンがある。フレディの人生のターニングポイントには毎回メアリーが関わっている。メアリーはフレディと距離を起きながらも、本当にフレディが必要としたときに手助けをする天使のよう。こういったシーンがあるからこそ、クライマックスのライブエイドが感動的になるわけで。フレディの姿に感動するのはもちろんだが、彼を影で支え続けたメアリーにこそ、ワイは感動したよ。

作品情報
製作年:2018年
監督:ブライアン・シンガー
キャスト:ラミ・マレック、ルーシー・ボーイントン



ホドロフスキーのDUNE JODOROWSKY'S DUNE



作品について
未完の大作「デューン」について、企画から制作中止にいたるまでの経緯を、監督のホドロフスキーを主に、関わったスタッフや、影響を受けた映画監督などのインタビューを通して描く。
「デューン」に関わるはずだったスタッフには、メビウス、ギーガー、ダン・オバノン。キャストには、ダリ、オーソン・ウェルズ、ミック・ジャガーなどそうそうたるもの。「デューン」は20時間を超える超大作だが、本作は90分にコンパクトにまとめられており、非常に観やすい。描かれた膨大な絵コンテなどを元に作られたアニメーションや、宇宙船や建築物のそれぞれが素晴らしいが、何よりもホドロフスキー自身の芸術家としての在り方が感涙もの。ポジティブそのもので、ユーモアの塊みたいだが、本当に世界を変えるために作品を作るという情熱が伝わってくる。

作品情報
製作年:2013年
監督:フランク・バヴィッチ
キャスト:アレハンドロ・ホドロフスキー




レヴェナント:蘇りし者 The Revenant



作品について
 とある毛皮ハンターの一団が、先住民の襲撃を受ける。ハンターたちは命からがら逃走を続けるが、ガイドを勤めていたグラスが道中クマに襲われ、瀕死の重症を追ってしまう。隊は彼の最期を看取ることを条件に、グラスを置いて出発する。しかし、グラスと共に残された、フィッツジェラルドは手っ取り早く彼を殺そうとするが、グラスの息子ホークに見つかってしまう。フィッツジェラルドはホークを返り討ちにし、殺してしまう。奇跡的に一命をとりとめたグラスは、フィッツジェラルドの追跡を始める。
 冒頭の先住民の襲撃シーンは、カットを切らない長回しで撮影され、圧倒される。
グラスが熊に襲撃されたあとは、喉を切られ声が出ず、足も折れて歩くこともできない。極寒の中、地面を這いつくばりながらナメクジのように追跡をする。フィッツジェラルドを追いかけるが、後ろからは先住民が追いかけてくる。乗っていた馬とともに、断崖から落下し、さらにその死んだ馬の内臓を取り出し、馬の体の中に入って睡眠をするシーンは、過酷な自然環境を生き延びなければならない壮絶さを物語る。

作品情報
製作年:2015年
監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
キャスト:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ



ナイトクローラー Nightcrawler


作品について
銅線を盗んで、スクラップヤードで売ることで日銭を得ているルイスは、ある日事故現場を撮影してテレビ局に映像を売る、パパラッチの存在を知る。ルイスはビデオカメラを手に入れ、警察無線を傍受しながら事故の発生を待つ。やがて彼の映像は高く売れるようになるが、テレビ局の要求は徐々にエスカレートしていく。
学歴もなく、仕事もなく、友人もおらず、どん底のような人生を送る主人公が、パパラッチとして開花していく様子は、痛快である。TV局に売り込む際、2回りほど年上の女プロデューサーを口説くずうずうしさなど、主人公の気味の悪さを、ギレンホール特有のギョロギョロした目で表現している。
ついには、会社を設立しパパラッチ映像を販売するようになるが、クライマックスでこの男が迎える結末は、ハリウッド映画では珍しいものである。

作品情報
製作年 :2014年
監督  :ダン・ギルロイ
キャスト:ジェイク・ギレンホール


マッドマックス 怒りのデス・ロード Mad Max Fury Road


作品について

 文明が壊滅した世界で、水や食料といった資源を独占している支配者イモータン・ジョーには、一族繁栄の為、子産み目的で監禁している5人の妻がいる。ジョーの側近であるフリオサは、ジョーを裏切り5人の妻たちを引き連れて砦を脱出する。
 ストーリーはシンプルで、2時間ぶっ続けのカーチェイスだが、中身が無いわけではなく、フュリオサの過去に起きた深い悲しみなどを想起させる重厚さもある。
マックスが主人公ではあるが、本作の主軸はフュリオサであり、とにかく彼女がかっこいいの一言につきる。片腕で坊主にも関わらず、それでも一番の美女というのがすごい。
 撮影時間は計480時間以上にものぼり、そこから2時間を抽出しているため、編集の作業がいかに大変なものかがうかがえる。

作品情報
製作年 :2015年
監督  :ジョージ・ミラー
キャスト:トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン



息もできない Breathless


作品について
 粗暴な借金の取り立てを行う男サンフンは、男勝りの女子高生と運命的に出会う。家庭環境や境遇が似ていることから、二人は惹かれあっていく。そして、凶暴なサンフンの心情に変化が表れ始めるが。
 暴力的で重たい内容だが、そこまでの残酷描写はない。主役2人の交流がメインに描かれる。ラブストーリーの位置づけではあるが、恋愛感情というよりは友情に近い。不幸のスパイラルから逃れられず、将来に希望も持てないながら、もがき続ける様に目を背けたくもなるが、それでも逞しく生きる姿、その壮絶さは、今の日本映画界では描けないのではないか。
 監督、脚本、製作、編集、主演の全てを一人でやり遂げたヤン・イクチュン。制作費も途中でなくなり、友人や家族に借金をしたり、家を売り払ったりなど、命がけで作った情熱が作品からも伝わってくるような気がする。

作品情報
製作年 :2008年
監督  :ヤン・イクチュン
キャスト:ヤン・イクチュン、キム・コッピ



ショート・ターム Short Term12



作品について
問題を抱えるティーンエイジャーたちのためのグループホームで、繰り広げられる日常を、施設のケアマネジャーを通して、温かいユーモアで描いたドラマ。

主人公は、後に「ルーム」でアカデミー賞を受賞するブリー・ラーソン。
主人公のケアマネジャー自身も、過去に問題を抱えており、それが子供達のケアの原動力になっているエピソードが泣ける。登場する子供達は、それぞれシリアスな問題を抱えているが、暗く重たい印象はなく、スタッフのケアにより楽しく過ごしている。作品全体がユーモアに包まれていて、なおかつテンポが良い。オープニングとエンディングのつながりが面白い構造になっており、なるほどとなること間違いなし。

作品情報
製作年 :2013年
監督  :デスティン・ダニエル・クレットン
キャスト:ブリー・ラーソン