マルホランド・ドライブ Mulholland Drive



作品情報
製作年 :2001年
監督  :デヴィッド・リンチ
キャスト:ナオミ・ワッツ、ローラ・ハリング、ジャスティン・セロー

カンヌ国際映画祭 監督賞受賞

あらすじ
夜のマルホランドドライブで自動車事故が起こる。事故現場から一人生き延びた黒髪の女性は、助けを求めにハリウッドまでたどり着く。女性が偶然潜り込んだ家は、有名な女優ルースの家だった。ルースの姪である女優志望のベティに見つかった黒髪の女性は、部屋に貼られていた女優リタ・ヘイワースのポスターを見て、反射的に「リタ」と名乗った。彼女はベティに自分が事故で記憶喪失になっていると打ち明ける。リタのバッグには大金と青い鍵。ベティはリタの失った記憶を取り戻すことに協力する。

みどころ
 通常の映画の見方では、混乱する作品である。いくつかのストーリーが、脈絡もなく混在し、関わることもない。おまけに何の説明もされることなく話が進行するため観客は置き去りにされる。だが、ストーリーの解釈や、組み立ては観る者が組み立てることも自由である。
 リンチ本人が語る本作のあらすじは、ハリウッド女優を目指し上京してきた女優志望の女性が、挫折、苦悩の果てに自殺をする直前に見た、倒錯した妄想を描いたものだという。だが、リンチはあくまでも観客の解釈によって作品が完成することを目指しており、リンチ自身が語るあらすじは解釈の一つにすぎない。
 前半を主人公が見ている夢、青い箱を開けてからが現実。夢の中では、仕事もプライベートも何もかもが思い通りに上手くいっている。だが、夢から醒めた現実でダイナーにおけるワッツの姿はまるで別人であり、役を奪った友人を殺そうとするも、罪の意識に苛まれ、自分自身を追い込んで行く。優雅で甘美でありながら、深い悲しみを描いた作品であり、理解をせずにも、リンチが描くワンダーワールドに身を委ねるだけでも心地よい余韻が残る。

 ナオミ・ワッツは、15歳の時に知り合ったニコールキッドマンとは、現在に至るまで深い交友関係にあるが、キッドマンが世間の注目を集める中で、ワッツはなかなか評価がされず、カルト映画やB級映画で食いつなぐ苦しい時期が長く続く。ワッツが35歳のとき、本作の主役に抜擢され、数多くの映画賞を受賞したことから、ブレイクを果たす。
ハリウッドという夢の世界に裏切られた女が主人公の本作は、ワッツにとって、自らの俳優人生とも重なる。女優として長く味わった屈辱や苦悩が滲み出ており、まさに適役である。

楽曲は、リンチ作品常連のアンジェロ・バタラメンティ。不可思議さのなかに、重厚感のある『Mulholland Drive / Love Theme』。オーディションで流れる軽やかやポップソング『I've Told Every Little Star』。クラブシレンシオでの『Llorando (Crying)』など聴き応えのあるサントラは、リンチファンならずとも、必聴である。


そして父になる LIKE FATHER, LIKE SON



作品情報
製作年 :2013年
監督  :是枝裕和
キャスト:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー

第66回カンヌ国際映画祭 審査員賞受賞

あらすじ
大手建設会社に勤め、都心の高級マンションで妻と息子と暮らす野々宮良多。ある日、産院からの電話で、6歳の息子が取り違えられた他人の子だと判明する。妻のみどりは、気付かなかった自分を責め、一方良多は、優しすぎる息子に抱いていた不満の意味を知る。
良多は、相手方の家族と戸惑いながらも交流を始めるが、電気店を営む斎木雄大と、ゆかり夫婦の粗野な言動が気に入らない。過去の取り違え事件では100%血のつながりをとるというが、みどりと斎木夫婦は育てた子を手放すことに苦しむ。早い方がいいという良多の意見で、ついに交換が決まるが、そこから、良多の本当の父としての葛藤が始まる。

みどころ
 6歳になる慶太は、私立の小学校お受験、ピアノレッスン、ゲームは1日30分など、父親の決めたルールにがんじがらめになっている。そのせいか、自分の意志で物事が考えられず、常に父親の目を伺ってばかりいる。
 競争心に欠け、ピアノもちっとも上達しない、そんな慶太に良多は不満を募らせるが、
他人の子だと分かった瞬間に、妙に納得してしまう。
自らの論理に何でも従わせる、鼻持ちならない高慢なエリートが持つイヤミっぽさを、福山雅治が違和感なく演じている。わざとらしい、ステレオタイプな父親像は、良多自身が父親の影響を受けているため。
 対する斎木一家は、一見すると粗野だが、人間味溢れる家庭。子供との距離も近く、自由でのびのびしている。特に、真木よう子の乱暴な言葉づかいがいかにも上手である。
初めは嫌々ながら斎木家に、泊まる慶太もすぐに馴染んでしまう。
 子役の描写も見事で、慶太を演じた二宮慶太は、父親との埋まらない距離感を見事に体現した。

なぜ、取り違えが起きてしまったのか、
6年間育てた子が他人の子であったことにどう向き合うのか
血を選ぶのか、それとも・・。 
そして、父親とは何かを学び、成長していく姿。
人間ドラマとしてもエンターテインメントとしても、充実した内容となっており、細かい描写まで気を配った作りとなっている。



マネーボール Moneyball

マネーボール


作品情報
製作年 :2011年
監督  :ベネット・ミラー
キャスト:ブラッド・ピット、ジョナ・ヒル、フィリップ・シーモア・ホフマン

あらすじ
2001年ポストシーズン、オークランド・アスレチックスはニューヨーク・ヤンキースの前に敗れ去った。オフには、スター選手であるジョニー・デイモン、ジェイソン・ジアンビ、ジェイソン・イズリングハウゼンの3選手のFAによる移籍が確定的。アスレチックスのゼネラルマネージャー(GM)となっていたビーンは、2002年シーズンに向けて戦力を整えるべく補強資金を求めるも、スモールマーケットのオークランドを本拠地とし、資金に余裕の無いオーナーの返事はつれない。
 ある日、トレード交渉のため、クリーブランド・インディアンズのオフィスを訪れたビーンは、イエール大学卒業のスタッフ、ピーター・ブランドに出会う。ブランドは各種統計から選手を客観的に評価するセイバーメトリクスを用いて、他のスカウトとは違う尺度で選手を評価していた。ブランドの理論に興味を抱いたビーンは、その理論をあまり公にできず肩身の狭い思いをしていた彼を自身の補佐として引き抜き、他球団からは評価されていない埋もれた戦力を発掘し低予算でチームを改革しようと試みる。

みどころ
・貧乏球団が金持ち球団をやっつける
2000年代初頭のメジャーリーグは、財力のある球団とそうでない球団の格差が広がり、良い選手はことごとく金満球団へ引き抜かれる状況が続いていた。貧乏球団のオーナーからは、「もはや野球はスポーツではなく、金銭ゲームになってしまった」という嘆きの声が上がっていた。そんな中、リーグ最低クラスの年俸総額でありながら、黄金時代を築いていたチームがビリービーン率いるアスレチックスである。毎年のようにプレーオフ進出を続け、2002年には年俸総額が1位のニューヨーク・ヤンキースの1/3程度だったにもかかわらず、全球団で最高の勝率を記録したのだ。アスレチックスはなぜ強いのか?多くの野球ファンが感じていた疑問の答えは、セイバーメトリクスを用いたチーム編成だった。

チーム編成、および選手獲得の基準は以下の通りである。状況(運)により変動する数値は判断基準から排除され、本人の能力のみが反映される数値だけに絞り込んで評価することが最大の特徴。
出塁率: 打率ではなく、四死球も含めた出塁する率。
選球眼: ボールを見極め、四球を選び、出塁率を上げるために必要な要素。投手により多くの投球をさせる能力、言い換えれば「粘る力」は相手投手の疲弊を招き、四球を得る確率の向上に繋がるためである。
バント・犠打: ワンアウトを自ら進呈する、得点確率を下げる行為と定義して、完全否定した。犠打で進塁させることで上がる得点の期待値は、そのまま強攻させるより小さいためである。
といったことが挙げられる。

旧来の、スカウトの暗黙知(経験や勘)による選手評価を全否定し、客観的データ主義を徹底した。体格やバッティング・ピッチングフォームなどの外見は考慮しない。あくまで、前述の要素を満たす選手を獲得することに注力した。

・欠陥品・傷物と呼ばれた選手たち
アスレチックスが獲得する選手は、他球団で評価されない「欠陥品」・「傷物」とされた選手である。この欠陥とは他球団の価値基準においてであり、アスレチックスの基準においては必ずしも問題とはならない。前述の能力を有していれば、これらの欠陥はほとんど問題にされない。 例えば、ボストン・レッドソックスの捕手だったスコット・ハッテバーグは、捕手として致命的な利き腕に怪我を負い、手術したため選手生命は絶望的な評価をされ、年俸が低かった。しかし、高い出塁率を残していたことをアスレチックスに注目され、アスレチックスに内野手として獲得された。その結果、主軸打者として活躍した。
野球人生を諦めていた選手たちが、ビーンのおかげで、再起を果たし活躍する姿は非常に感動的である。

・ビーンの過去
ビーンは、かつて超高校級選手としてニューヨーク・メッツから1巡目指名を受けたスター候補生だった。スカウトの言葉を信じ、名門スタンフォード大学の奨学生の権利を蹴ってまでプロの道を選んだビーンだったが、自身の性格も災いして泣かず飛ばずの日々を過ごし、さまざまな球団を転々とした挙句、引退。スカウトに転進し、第二の野球人生を歩み始める。
ビーンが、セイバーメトリクスに固執するのは、スカウトにおだてられて人生を棒に振ってしまった過去に加え、ビーンのようにスター選手としてスカウトされながらも、全く活躍できない若者が山ほどいるという現実を変えたいと思う姿に心を打たれる。

ファンタスティック Mr.FOX Fantastic Mr. Fox



作品情報

製作年 :2009年
監督  :ウェス・アンダーソン
キャスト:ジョージ・クルーニー、メリル・ストリープ、ビル・マーレイ、ウィレム・デフォー、オーウェン・ウィルソン

あらすじ
Mr.フォックスは盗みをしながら暮らしていたが、妻のMrs.フォックスとちょっと変わり者の息子アッシュのために、盗みから足を洗い、今は穴暮らしをしながら新聞記者として働く日々。だが、「もっといい暮らしをしたい!」そんな欲求にかられた彼は、丘の家を購入することに。しかし丘の向こうには意地の悪い3人の人間の農場主(ビーン、ボギス、バンス)が住んでいた。憧れの家へ引っ越し、人間に近づいたMr.フォックスは野生の本能が目覚めてしまい、人間たちの飼育場から昔のように獲物を盗むことに熱を上げていく。日々、獲物を盗まれる人間たちの怒りはついに頂点に達し、結束した3人はトラクターを使って根こそぎ丘を掘り返しはじめた。父親として、"ファンタスティック"に生きたいMr.フォックスと土の中で生活する彼らの仲間たちは、野生の本能と誇りをかけ、人間たちと戦いはじめる!

みどころ
・こだわりのストップモーションアニメ
 原作の「すばらしき父さん狐」は「チャーリーとチョコレート工場」の著者ロアルド・ダール。
 ウェス・アンダーソンがどうしても撮りたかった、CG時代にあえて挑んだこだわりのストップモーション・ピクチャーと銘打つだけあり、構想10年 撮影期間2年 総カット数は、125,280にも及ぶ。人形ながらも表情が豊かで、CGとは違った懐かしさを感じられる映像である。もちろん、オフビートな雰囲気やとぼけたユーモア、センス抜群の美術などウェス・アンダーソン独自の世界観もしっかりと表現されており、ファンならずとも誰にでもオススメできる。
 クライマックスのアクションシークエンスの出来も秀逸で、大興奮間違い無し。
 他人と違うことに悩む息子に、自分らしく生きることの大切さを体現するフォックス夫妻の姿は微笑ましくも、感動的。

・こだわりのサントラ
 独自のビジョンを表現するために、脚本と監督はもとよりカメラワーク、プロダクション・デザインや衣装に至るまで熟慮するアンダーソンは、当然、劇中音楽の選曲にも気をつかっているザ・ビーチ・ボーイズ、ボビー・フラー・フォー、バール・アイヴス、ジョルジュ・ドルリュー、ローリング・ストーンズらの楽曲に加え、アレクサンドル・デプラが作成した楽曲を含んだサントラは、必聴である。

・超豪華な声優陣
 アンダーソン作品にはたびたび出演する常連俳優、盟友のオーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、ウィレム・デフォー、ジェイソン・シュワルツマン等に加え、ジョージ・クルーニーやメリル・ストリープといった大御所も肩を並べている。


ザ・シンプソンズ MOVIE The Simpsons Movie

東電の汚染水垂れ流しが問題の今こそ観るべき作品?!


作品情報

製作年 :2007年
監督  :デヴィッド・シルヴァーマン
脚本  :ジェームズ・L・ブルックス、マット・グレイニング

あらすじ
 アメリカの田舎町スプリングフィールドで暮らすシンプソン一家。ある日ダメ親父のホーマーは、バーガーショップで助けたブタを飼い始め、一風変わった愛情を注ぐようになる。
 その頃、湖の汚染が危機的水準に近づいたため、町は湖にごみを捨てることを禁止した。ブタの排泄物を貯めていたサイロを処理場に搬入しに行ったホーマーは、処理場が混雑していたため、禁止を無視しサイロを湖に捨ててしまう。 その結果、さらに汚染が進み強烈な汚染物質を撒き散らし始めた湖への対処を迫られたアーノルド・シュワルツェネッガー大統領は、スプリングフィールドをドームで覆い隔離するよう命じた。ドームで覆われ外界と遮断されたスプリングフィールドは、雨も降らず風も吹かない地獄と化したのだった。

見どころ
・シンプソンズ待望の映画化
 シンプソンズは、アメリカ・FOXテレビで、1989年の放送開始から500話以上が放映されており、アメリカアニメ史上最長寿番組として知られ、2009年には20周年を迎えた。2012年2月19日に第500話目のエピソードが放映された。現在は60か国以上で20か国語に翻訳され、全世界で毎週6000万人以上が視聴している。エミー賞、ピーボディ賞受賞作品。
劇中の人間関係や各方面に及ぶ社会ネタに対するシニカルな描写が常時繰り返される一方、能天気なオプティミズム(楽天主義)と主人公一家の家族愛を根底に据えており、乾いたユーモアをあまりストレスなく楽しませる趣向になっている大人向けのアニメ。そんなシンプソンズが、総勢11人の脚本家によるブラックな笑いをたっぷり含み、満を持ししてついに映画化された。

・おなじみのキャラクター
 主人公であり、家族の大黒柱のホーマーは、家族に対する愛情はとても強く、それを示す行動に出るがほとんど空回りに終わる。子供の頃に鼻から突っ込んだクレヨンが脳に刺さったのが原因で、頭が悪い(IQ55)。そんな彼が、スプリングフィールドの原子力発電所で安全管理官として働いているといった登場人物の設定はおなじみである。

・大スターが多数カメオ出演
 グリーンデイや、シュワルツェネッガー、トム・ハンクスなど大スターや有名人が、実名でカメオ出演したり、さまざまな映画のパロディが随所にちりばめられているといった、芸能ネタも楽しみの一つ。

 

恋愛睡眠のすすめ The Science of Sleep

女性にもオススメの作品


作品情報

製作年 :2006年
監督  :ミシェル・ゴンドリー
キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル、シャルロット・ゲンズブール

あらすじ
 仕事も恋愛も何一つ上手くいかずパッとしない人生を送ってきたステファンは、父の死をきっかけに、長年暮らしていたメキシコから母のいるパリに帰郷する。そんな時、ステファンの部屋の隣にも新しい住人が引っ越してくる。引越し作業中に、運搬屋の不注意でケガをしたステファンは隣人ステファニーに手当してもらうが、引っ込み思案でシャイなため隣に住んでいることさえ言えない。やがてステファンは、クールで知的なステファニーを好きになるが、なかなか恋は上手くいかない。そんな現実から、せめて眠っている間だけでも彼女に会うため、理想的な夢ばかり見るようになる。夢の中でのステファニーとの恋愛は完璧な形で展開していく。だが次第に、ステファンは夢での出来事を現実だと思い込むようになっていって。

見どころ
・ステファンのイマジネーション
 ステファンが逃げ込む夢想の世界は、とても可愛らしく、ホンワカとする。蛇口をひねればセロファンの水が飛び出るし、空にはぬいぐるみの綿でつくった雲が流るといったように。シュヴァンクマイエルのような、アート系のアニメーションが好きな人にとって、またそうでない人にとっても、ステファンのイマジネーションに心を動かされる。
 孤独の中で想像力が豊か、周囲と満足なコミュニケーションが取れない不器用なんだけれど、母性をくすぐる男性版アメリのようなステファンを、ガエル・ガルシア・ベルナルが好演している。

・ゲンズブールの魅力
 少し突き出た下唇、とがった顎、ふてくされたような、つんとした表情、飛び抜けて美しいというわけではないが、妙に惹きつけるものを持っている女優。どこにでもいそうで、どこにもない類稀な個性を持ったゲンズブール。そんな彼女が、クールで知的、年上のお姉さんを魅力たっぷりに演じている。

・サントラのすすめ
 テーマ曲の「Coutances」や、「Golden pony boy」など、PV出身のゴンドリーによる選曲も、映画の雰囲気にマッチしており、サントラだけでも聴きごたえがある。
 

ダークナイト The Dark Knight



バットマンシリーズ最高傑作

作品情報
製作年 :2008年
監督  :クリストファー・ノーラン
キャスト:クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、ゲイリー・オールドマン、
     モーガン・フリーマン、アーロン・エッカート等

アカデミー賞:助演男優賞、音響編集賞受賞

あらすじ
 ゴッサム・シティに、口の裂けた顔にピエロのようなメイクを施したジョーカーと名乗る正体不明の犯罪者が現れた。
 一方、バットマンことブルース・ウェインは、ゴッサム市警のジム・ゴードン、新任の熱血地方検事ハービー・デントと協力し、マフィアの資金洗浄を一斉に摘発するという大胆な手段にうってでる。マフィアは資金源を断たれボスたちを除くそのほとんどが投獄されることとなった。
 ハービーの正義の信念が本物であることを知ったブルースは、自分と違って素顔を晒し、法に則って堂々と悪と戦う彼こそが、ゴッサムの求める真のヒーローであると確信し、バットマンを引退しようと考え始める。
 追い詰められたマフィアたちは、突如現れたジョーカーに資産を委ね、バットマンの殺害を依頼する。警官や市民を次々と殺害し、バットマンを心理的に追い詰めていくジョーカー。市民の命と引換えに、バットマンの投降を条件にしたジョーカーに、ブルースは選択を迫られる。

見どころ
・圧倒的なリアリティ
 バットマンが通常のスーパーヒーローと違うのは超能力を持ってないこと、バットタンブラーやバットポッドといった兵器を作るお金があるだけの超大金持ちである点にある。
 できればバットマン業を引退して、悪との戦いは他の誰かに任せ、恋人と幸福に暮らしたいと思っている。ところが、ヒーローとして立ち上がった検事のハービーは、ブルースの恋人レイチェルと三角関係にあるため、引退の決意がなかなかつかない。
 バットマンの役割は、法が裁けない悪を根絶すること。だが、法の下ではバットマンの存在自体が悪であり、犯罪者として警察からは追われつつ悪と戦わなければならない。
 善と悪が非常に曖昧な形で存在し、善であることがより強大な悪を生み出してしまうという葛藤が発生してしまう。現実社会にバットマンが存在した場合の、倫理的問題が描かれているという、他のヒーロー映画とは一線を画す内容となっている。
 
・重量感のあるアクション
 バットマンといえば、バットタンブラーやバットポッドといった乗り物が生み出すアクション。爆薬のスペシャリストでもあるジョーカーが、病院を爆破するシーンは圧倒的な迫力。ハンス・ジマー、ジェームズ・ニュートン・ハワーズが織りなす楽曲のもと展開されるスペクタクルは、大興奮間違い無し。

・ジョーカーの存在
 本作の完成を待たずに急逝した、ヒース・レジャー。まさに命をかけた執念の役作りで生み出したジョーカーは、パーフェクトな完成度で、狂気っぷりが凄まじく、ジャック・ニコルソンが演じたものを凌駕している。
 バットマンと表裏一体のように存在するジョーカーは、自らを混沌の使者だと語るように、混乱が大好き。ジョーカー自身は、正義と悪のどちらにも属さない、マフィアを利用したり、ハービーを悪に染めたり、正義と悪の双方に揺さぶりをかける存在である。
 バットマンが存在するからこそ、より凶悪な犯罪者を生まれるということを、ジョーカー自身が体現している。




人生はビギナーズ Beginners


イヌの演技がグッド!

作品情報
製作年 :2010年
監督  :マイク・ミルズ
キャスト:ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー、メラニー・ロラン

アカデミー賞:助演男優賞(クリストファー・プラマー)

あらすじ
奥手な性格のオリヴァーは38歳になった今でも独身のまま。母ジョージアが亡くなってから5年が経ったある日、父ハルから突然自分がゲイであるとカミングアウトされる。同時に様々な人生の楽しみを探し始め、歳若い恋人アンディとも出会いゲイの友人たちに囲まれて幸せそうに過ごすようになった。父親の突然の行動に戸惑いを隠せないオリヴァーだが、老いてなお人生を楽しむ姿に影響を受けていく。だが直後にハルは末期ガンであると診断され、治療とオリヴァーの看護を受けつつも亡くなってしまう。 ハルの死から数カ月後、とあるパーティーでオリヴァーはフランス人女優アナと出会う。アンディと出会ったハルの姿を見ているオリヴァーは、勇気を出してアナと付き合い始める。オリヴァーはハルの死とジョージアと結婚した理由について納得できずにいたが、アナもまた精神的に不安定な父親について葛藤を抱えていた。共に父親に対して複雑な感情を抱く者同士、最初は恋愛にも悪影響が及ぶが徐々に一緒に解決していこうと歩み出すようになる。

見どころ

・父親役を演じたプラマー
妻の死後、75歳でゲイをカミングアウト。人生の最後を自分の心に忠実に生きた父。他者との関係に一歩踏み出せない臆病な主人公、そんな彼が父に勇気をもらい、 人生を前向きに生きようと変化してくいく。 クリストファー・プラマーは決してこれみよがしになることなく、ゲイ・コミュニティの75歳のビギナーのときめきに微苦笑させたり、せつなくさせたり。ほのぼのと心が温まる。

・飼い犬のアーサー
迷える主人公にウィットに富んだ“心の声”で語りかけるジャック・ラッセル・テリアが可愛い。

・美術センスの良さ
インテリアや、色使い等、グラフィックデザイナー出身のマイク・ミルズのセンスが感じられる。

タイトル一覧




ヒート Heat



映画史上最高の銃撃戦


作品情報
製作年 :1995年
監督  :マイケル・マン
キャスト:アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ

あらすじ
犯罪のプロフェッショナル、ニール(デニーロ)は、クリス、チェリト等と現金輸送車を襲い有価証券を奪う。捜査にあたるロス市警のヴィンセント(パチーノ)は、2度の離婚歴をもち、現在も家庭崩壊中の仕事人間で、鬼刑事。
ヴィンセントは、少ない手がかりからニール一味へ近づいて行く。ニールは、書店店員のイーディとであったことから、次の銀行強盗を最後に堅気になることを決意していた。
やがて決行の時、かつての仲間のタレコミにより現場にかけつけたヴィンセント達警官と、ニール一味は、壮絶な銃撃戦に身を投じて行くことになる。

見どころ
・2代巨頭の初共演
男が惚れる男、とにかく渋い。
知的で冷静、寡黙、決してミスを犯さない犯罪のプロを演じるデニーロ。
対して、仕事に生きて家にも帰らないため、離婚歴も多々、現在の妻とも離婚の危機を向かえ、家庭崩壊状態、情熱家だが、感情的で常に吠えまくるという、パチーノ。
対称的だが、どちらもプロフェッショナルという点ではお互いを認め合っている点に、作品の深みを感じられる。

・映画史に残る銃撃戦
銀行襲撃時の12分間にもおよぶ銃撃戦は圧巻。
実弾を使用していることからも、銃声へのこだわりがすごい。
武器マニアもうなること間違い無しの、銃撃戦。これを観るだけでも価値がある。

・女性との別れ
いくつもの印象的なシーンが挙げられるが、そのなかでも、別れの描きかたが特に印象的である。
ヴァルキルマーとデニーロ、それぞれが最愛の女性との別れが描かれているが、距離が離れていて、言葉も交わらない、ただアイコンタクトを取るだけ。通常の映画では扇状的に描くところを、あっさりと描いている。女性に対しても、プロフェッショナルを貫く。

あのヒートを超えたという犯罪映画の宣伝文句で、引き合いに出されることが多い本作は、未だ本家を超える作品が現れてない証拠といえるのかもしれない。


私が、生きる肌 The Skin I Live In


絵画的な映像美

「オール・アバウト・マイ・マザー」、「トーク・トゥ・ハー」のペドロ・アルモドバル監督の最新作。
1カット目から、巨匠の風格を見せつけるかのごとく、美的センス抜群のシーンから傑作を予感させるが、内容自体が平凡なサスペンスになってしまっている点が少し残念なところ。
 だが、内容を抜きにしても、ゴルチエがデザインした衣装、アルベルト・イグレシアスによる秀逸な音楽、絵画を切り取ったような映像を堪能するだけでも満足な1作。

あらすじ
世界的な形成外科医ロベルの大邸宅の一室に、ベラという美しい女性が厳重な監視下のもと、軟禁されている。彼女はロベルの妻に瓜二つであるが、ロベルの妻は12年前に非業の死を遂げていた。
 12年前。ロベルの妻は、事故で瀕死の全身火傷を負ってしまう。ロベルは彼女のために、人工皮膚の開発を行うが、奇跡的に回復した妻は自身の姿を見た瞬間、発狂して自殺してしまう。ロベルは人工皮膚の開発に執念を燃やし、ついに完成した皮膚を実験台に移植し、妻に作り替えて行ってしまう・・。


予告では、誰が死んだ妻の代わりになったのか?、というミステリーを強調した内容となっているが、本作では、誰がという点は早々と分かってしまうので、妻の代わりになった人間の愛を得ることができるのかというのが本作のテーマとなっている。



風立ちぬ


アダルティーなジブリ


堀辰雄の小説「風立ちぬ」の主人公に零戦の設計者、堀越二郎を据えその半生を描いた作品。実際のエピソードを下敷きにしつつも、ヒロインとの恋愛シーンなどにオリジナル要素を盛り込んだストーリーが展開される。主人公の人物像は完全なオリジナルとなっている。

・あらすじ  主人公二郎は、薄情で感情表現乏しく、自分中心な人物。そんな彼の求めるものは究極の美しさ。それは、二郎にとって飛行機であり、女性の美である。

二郎は震災のときに助けた女中のおきぬに恋をしていたが、本作のヒロイン菜緒子は、そのときに二郎に恋をする。そんなことは、つゆ知らず、菜緒子と久しぶりに再開しても誰だか気付かない二郎。2人目の子供が生まれるといって、おきぬを恋敵から排除した菜緒子は、まんまと二郎のハートをゲットするわけだが、菜緒子は重い結核を患っていた。

二郎は、菜緒子が山奥のサナトリウムに寂しく入院していても、一度も見舞いにも行かず、書いた手紙も自分のことばかり。長く生きるよりも、自分が一番キレイな瞬間を恋人にみてもらうことを選択した菜緒子は、一人サナトリウムを抜け出す。

・感想
自らの命を賭してまで、療養所を抜け出し主人公の元へ向かうヒロイン。残された短い時間を大切な人一緒に過ごしたいけれど、決して束縛することなく、主人を支える健気な姿に心打たれること間違い無し。男は綺麗なものにしか興味がなくて、女はそれを受け入れろっていうのがテーマ?!

庵野の棒読みがダメだという批判をよく見かけるが、的外れも良いとこ。
だって、これだけ完璧な作品を作れる天才が、最も重要な主役の声にわざわざ素人を器用しているのは、狙いがあってのことだし、人間味に欠ける二郎を表現するためにはピッタリの配役だと思える。何よりも、あの声で「キレイだよ」なんて言われたら女性なら、みんなキュンとくるのでは?







桐島、部活やめるってよ




文句無しの傑作!


誰もが、経験したことのある、高校時代のほろ苦い思い出を思い出し、微笑ましくなれる。自分が高校生のとき、作品で描かれるクラス内の階級では、どこに属していたかを当てはめて観ることができて面白い。
いわゆる階級のトップに君臨するモテモテグループと、桐島とは全然関係のない、映画部のダサイグループ。桐島が退部したことで、上の階級に属する多くの人間が影響を受けるのだが、下の階級である映画部だけは蚊帳の外でゾンビ映画を黙々と作る。この2つの階級の視点から物語が描かれていく。
上の階級の人間が徐々に緊張感が増して行く中で、あくまでも自分たちの世界の中で映画を作り続ける映画部たち。

ついに、桐島の問題に翻弄されている人間たちが、自分たちとは全く無関係の映画部とぶつかり合うラスト。階級が上の人間が下の階級を軽視し、彼らの立場を考えずに撮影現場に足を踏み入れることで、ついに映画部はキレる。
あくまで、自分たちの問題しか考えなかった上の階級が、初めて下の階級に目を向けることで、身分の違う階級の人間同士がお互いの存在、それぞれが抱える問題に直面するラスト。クラス一のイケメンで何もかも完璧な人間が、映画部のカメラを手にとる場面に心が温められる。

映画部の作っているゾンビ映画は、クオリティが非常に高く笑える。


ヒミズ





主演の染谷将太と二階堂ふみは第68回ヴェネツィア国際映画祭にて新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。

あらすじ
 貸しボート屋を営む家庭の一人息子、住田祐一(15歳)中学3年生。
震災によって、ホームレスとなった大人たちと平穏な日常を送っていたが、ある日、蒸発していた父親が突然現れ、金の無心をしながらも、住田に激しい暴力を振るう。母親は中年男性と駆け落ちをし、家を出てしまう。彼の夢はただ普通の日々を送ること。お前なんかいらねえんだよと言われ、毎日殴られる日々、次第に自分の生きることの価値に疑問を抱くようになる住田。
 住田の同級生、茶沢景子は、娘が首を吊れるように、絞首台を作る両親という異常な家庭で、愛のある家庭を夢みる。
 住田に恋する茶沢は、猛烈アプローチをし、疎ましがられながらも次第に距離を縮めていくことに喜びを感じる。
しかし、父親がヤクザから借りた金を返せず、ヤクザにも暴力を受けるようになってしまった住田は、ついにキレてしまい父親を殺してしまう。
 学校にも行けず、ただ生きるために貸しボート屋を営む住田。夢も希望も崩れ去り、ゴミ以下の価値しかない命、それでも彼は命を立派に使って生きたいと決意する。社会に蔓延る悪党を探し出し、殺すこととともに。
 住田の理解者である茶沢は、暴走する住田にとっての唯一の希望となれるのか。

時折、挿入される3.11後の震災跡のショット、そしてラストシーンには、復興を目指す福島へのエールのようだ。